ワークターは世界を目指す―SAVOYと共に
WAAKTAAR READY FOR THE WORLD - WITH SAVOY... - 09/99
元記事:Stig Myhre in the September, 1999 edition of Puls
英訳:Cindy Kandolf and Sabine Clement 翻訳:みこ

「『Mountains of Time』は、a-haのニュー・アルバムに関わる人々にとってはデリケートな話題なんだ。僕たちがリリースしたばかりのアルバムが、a-haのために良いことなのか確信が持てないらしい。レビューの評価が信じられないくらい良くても、この問題は解決しないみたいだ…」

ポール・ワークター・サヴォイは、ポップ・ミュージック界で今年一番の話題だった(今までのところは)、Savoyのアルバムについて、こう語っている。

Savoyは90年代のロックに別れを告げたのだろうか? これまで、Savoyのファンやアルバムの評論家たちは、グラント・リー・バッファローやイールズ、レディオヘッドやケミカル・ブラザーズのような、「ポスト・グランジ」や「インディー・ロック」のようだと思っていた。それなのに今では、Savoyのニューアルバムと、ジョン・レノンやデビッド・ボウイや、50年代〜60年代の伝説的なプロデューサー、フィル・スペクターの懐かしのポップ・ミュージックとの類似点を語っているのである。

よく練られた音楽と、飾らないボーカル

突然、1960年代風になったのだ。ポールはビーチ・ボーイズの伝説的人物、ブライアン・ウィルソンが使っていたミキシング・デスクを買い取った。ポール、このことは偶然ではないですよね? 例えば『Mountains of Time』に収録されている『Grind You Down』を例にあげてみよう。手拍子から、喜びにあふれた雰囲気、ハーモニーにバッキング・コーラスにいたるまで、全てが懐かしいビーチボーイズのような音だ。でも、誤解の無いように。インディー・ロックと90年代風の音が、永久に姿を消してしまったわけではない。

「『Mountains of Time』でのボーカルはインディー・ロック風だったかもしれない。でも、アレンジに関しては違っている。僕たちのアレンジには、むしろインディー・ロックとは正反対のものもある。Savoyは、安っぽい音のギターと、即興的なセッションのバンドではない。Savoyの音楽は練りに練ったものだ。その上にかぶせるボーカルは、飾り立ていない部分、人間的な要素だ。とても率直で、直感的な歌い方だ。高音のビブラート唱法というのは、僕たちのスタイルじゃない。だから、ストリングスを使っていて、少しばかり仰々しい作品でも、ミュージカル作品みたいにならなくてすむんだよ」

もしかして、モートンの声って、ポールの声に似ている…?

「ローレンはとてもキャッチーな声をしている。だから何もしないでも、デュエットでの僕の声は辛気臭く響かせることができるんだ。ローレンは、どんなものでもコマーシャルな響きにすることができる。彼女はアルバムが"売れる"ようにすることのできる人だ」

「あなたの声とモートン・ハルケットの声を比べられた時は驚きましたか?」

「モートンの声が僕に似ている、とも言える。初めの頃は、モートンの歌い方はまったく(僕とは)違っていた。当時はモートンはとても高い声で、デビッド・ボウイのように歌っていた。時がたつにつれ、僕がa-haの曲のほとんどを作曲するようになった。もちろんデモ・テープでは僕が歌っていたんだ」

フィル・スペクターに学ぶ

Savoyは、アルバムのレビューの中では、ほとんど姿が見えないくらいだ。というのは、ジャーナリストたちは、思いつく限りの60年代のバンド全てを持ち出すからだ。

「それは単に、このアルバムが気にいったってことだろうけど」とポールは言い張る。

いや、そうではない。彼の音楽の趣味は、一般に思われているほどノスタルジックなものではない。実は、まったく現代的なのである。しかし、彼は、懐かしのフィル・スペクターのプロダクション技術が好きである。そのことは、ポールがフィル・スペクターの「音の壁」について語るのを聞けば分かるだろう。 レコーディングをひとつのイベントにし、様々なパートを同時にレコーディングする方法だ。そして、フィル・スペクターから、ジョン・レノンやビートルズへと向かうのは当然の成り行きだろう。フィル・スペクターはビートルズ最後のアルバム『Let It Be』(69年発表)と、ジョン・レノンの『Imagine』―レノンの作品の中で最も有名なもの―のプロデュースをしているからだ。

ビートルズ:匹敵する人は誰もいない

「僕は、ビートルズのソングライティングは、誰よりも優れていることを発見したんだ。ジミー・ヘンドリクスとドアーズが優れているのは、演奏においてだ。僕は、ジョン・レノンのストレートなスタイルが大好きなんだ。冗談で言っているんじゃないよ。時々、彼は歌を即興でテープに吹き込んだみたいに思えることがある。それでも、その結果生まれるのは同じようにいいものなんだ」

音楽ジャーナリストはあらゆる音楽をビートルズと比較しようとする。比較が妥当なものであろうとなかろうと、比較するのだ。このバンドは、あらゆるポップ・ミュージックを判断する基準となっている。『Mountains of Time』のストリングスは、確かにビートルズ、特に後期の『Penny Lane』や『I Am The Warlus』といった作品を思いおこさせる。しかし、ポールは違う意見だ。

「僕は、むしろエルビスのストリングスの方に似ていると思うよ。『In The Ghetto』みたいな、エコーをかけたストリングスだよ。ビートルズはストリングスにエコーを使ったりしなかったから」

根本的な本能

ポール・ワークター・サヴォイに、ライブ演奏の醍醐味について尋ねれば、こう答えてくれるだろう。

「ライブ演奏で一番楽しかったこと? それはSavoyとして、ニューヨークの小さなクラブで演奏したことかな」と、ポールは言う。

おかしなことを言っていると思うかもしれない。a-haは世界中をツアーし、ロンドンのハマースミス・オデオンやウェンブリー・アリーナのような有名な会場でプレイし、ブラジルでは、20万人以上という、観客動員記録を打ち立てた。彼らはポップスターであり、ステージ上ではロックの神様だったというのに、なぜニューヨークの小さなクラブは、期待はずれではなかったのだろうか?

「僕たちは、自分たちで機材を運び、アンプも借りなくてはならなかったんだけれど、こういうことは、僕の本能を刺激するんだ。目標は、その日の公演に出る、他の5つのバンドを負かすこと。中には、ものすごくいいバンドもいたんだ。100%の力を出さなくてはならなかった。世界的に有名だからといって、自慢できるだろうか?そこでは、自分にできる限りのことをやらなくてはいけないけれども、それ以外のくだらないことは忘れる必要があった」

「Savoyはノルウェー最高のライブ・バンドというわけではないですね。あなたたちのコンサートに対する批評を受け止めることはできましたか?」

「もちろん。『Luckluster Me』の頃のライブのコンセプトは、僕たちの最大の過ちだった。僕らは、レコード会社、特にイギリスの会社に何本もテープを送った。20社から25社くらいが、アルバムに興味を持ってくれた。でも、彼らはまず、業界向けのライブをしてほしがった。『Luchluster Me』のアレンジはとても複雑なものだった。非常に完成されたアルバムだっただろう?僕たちはライブで演奏するときには、ギターを活かしてみようとした。ところが、音楽業界側は、『いったいこれは何?これは私たちの好みじゃない』と言うんだ。それで理由が分かったよ。そのライブのスタイルは、一枚目のアルバム『Mary Is Coming』に合ったものだった。今回は、ファズをきかせたギターを多く使った。後から、アレンジを増やしたけれど、みんなは新しいアルバムの音を反映させたものを期待していたんだ」

「ノルウェーでSavoyのコンサートの予定はありますか?」

「クリスマス頃にノルウェーで、いくつかコンサートを計画している。いずれにせよ、今度のコンサートではきちんとプロダクションをしなくてはならないね。僕は10個もの異なったパートを演奏して、歌を歌うなんてことはやりたくない。Savoyにはもっとバックの助けが必要だ」

a-haはSavoyをつぶしてしまうのだろうか?

Puls誌は、a-ha再結成の「前」にもポールに会っている。『Luckluster Me』をリリースしたばかりのころだ。モートン・ハルケットとマグス・フルホルメンはもう一度a-haを始めることに熱心で、やる気があった。ポールは「分からないな…」と話していた。彼はa-haによって、彼のSavoyでのキャリアを中断されたくなかったのだ。a-haでもう一枚アルバムを出すのはかまわないけれど、ツアーや、本格的なプロモーション活動には乗り気じゃなかった。もしa-haのアルバムを出すにしても、その後すぐにSavoyの新しいプロジェクトにかかることもできるはずなのだが。

「でも、a-haはあまりにも大きなバンドだ。ひとつのことを始めたら、次のこともやらざるを得なくなる」と、1997年当時ワークターは話していた。確かにその通り。そして、まさに、その通りになることだろう。a-haを続けることは生半可な努力でできることではない。大々的なカムバックが計画されている。2000年にはツアーがおこなわれるし、様々な活動が予定されている。a-haは世界中を再び、彼らの足元にひれ伏させるつもりなのだ。そして、これこそが『Mountains Of Time』が誤解を生んでいる理由だ。

ポールとローレンは彼らの「お別れアルバム」を出し、いくつかインタビューを受け、そしてSavoyのストーリーに幕を下ろすかのように、受け取られるかもしれない。しかしポール・ワークター・サヴォイは、彼の心の産物をやすやすと諦めるつもりはないらしい。Savoyの新しいアルバムを2000年に出すことがすでに予定されている。1万人のノルウェー人が『Mountains Of Time』を発売当日に買っているのだ。9月7日の時点で、すでに売上枚数はその倍以上の数字にになっている。Savoyは突然、レコード購入者たちの注目を集めだした。Savoyの前回のアルバム『Luckluster Me』のトータルの売上は、『Mountains Of Time』の8日間の売上よりも少なかったのだ。

別の言葉でいえば、『Luckluster Me』が失敗した後では、a-haを続けることはもっと自然なことに思えたのだ。Savoyは反響が小さく、プロモーション活動も小規模で、a-haの脅威にはならなかったからだ。『Mountains Of Time』は音楽的にも、商業的にも大成功した。今やSavoyはa-haを脅かすことになるのだろうか…?

「間もなく発売されるa-haのアルバムに携わる人たちにとって、『Mountains Of Time』はデリケートな話題だ。彼らは、僕たちがリリースしたばかりのこのアルバムがa-haのために良いことなのか確信を持てないらしい。レビューの評価が信じられないくらい良くても、この問題は解決しないみたいだね…」

SAVOYで世界へ!

「レコード会社とマネージメントは、a-haのアルバム発売を来週にしたくなかったんだ。この意味では、彼らはa-haが失敗するかもしれないと考えているわけだね。彼らは僕にSavoyの海外での発売を待ってほしがっている。彼らの考えでは、a-haはまだアルバムを作る段階ではないというんだ。まあ、いいだろう。でも、僕はそのアドバイスには従えないね。マーケットは開かれているべきなんだ。どのバンドだって、成功を求めて挑戦したってかまわないだろう?」

「あなたが以前a-haで犯した過ちで、今回は絶対したくないと思っていることってありますか?」

「時々、僕たちはノルスク・ハイドロで働いているみたいな気持ちになっていたよ。a-haの将来はバンドとしてのものであって、ビジネスではない」

「マグネやモートンとの共同作業はどのように変わりましたか?」

「僕たちは今では、同じ趣味を共有しているわけではない。時には、背筋がぞくぞくするような歌ができる。それなのにモートンやマグネが同じように興奮していないので、僕は驚いてしまった、ということがあった。以前は、僕たちはいつも同じものに興奮したものだった。時が変えたんだね」

「今では僕は『なんだって!君らはこれが気に入らないの?何が起こったんだ?』と言うことがある」とポールは認める。でも、必死になって自分の曲を入れさせようとはしない。

なぜなら、今では彼にはそんな曲を入れる場所があるからだ。その曲を入れるバッグにはSavoyの名のラベルがついている。ありがたいことに…。